Mission 海域環境改善・修復への貢献~鉄とともに豊かな海をつくる~

鉄鋼スラグ水和固化体製ブロック・人工石材(JFEスチール & 日本製鉄)

鉄鋼スラグ水和固化体とは、セメントコンクリートの代替物として開発されたもので、結合材としてセメントの代わりに高炉スラグ微粉末、骨材として天然石砂の代わりに製鋼スラグ、必要に応じてアルカリ刺激剤や混和材を混合して製造するリサイクル製品です。ほとんど全ての原材料にリサイクル品を使用することから、セメント製造時のCO2発生の抑制や天然骨材採取による環境影響の抑制が期待できます。

鉄鋼スラグ水和固化体は、基本的にコンクリート製品と同じプロセスで製造されます。コンクリートプラント同様の設備を用いて混練し、型枠に流し込むことで任意の形状のブロックを製造することができます。また硬化後に破砕することで任意の大きさの石材を製造することもできることから、主に港湾工事における消波ブロックや被覆ブロック、石材代替材に適用されています。施工実績としては国土交通省のブロック工事や羽田D滑走路工事、東日本大震災後の護岸復興工事、各製鉄所の護岸工事など140万m3(2016年度実績)以上に達しています。なお、鉄鋼スラグ水和固化体製人工石材(フロンティアストーン®、フロンティアロック®)は、(一財)沿岸技術研究センターから港湾関連民間技術の確認審査・評価報告書第07001号を取得しており、グリーン購入法特定調達品目にも指定されています。鉄鋼スラグ水和固化体の特長を以下に示します。

01. 高密度

鉄鋼スラグ水和固化体製人工石材の密度は1.8~2.7 t/m3で、使用する原料や配合により異なります。また、鉄鋼スラグ水和固化体製ブロックは、標準的な配合で配合で2.3~2.6 t/m3(普通コンクリート約2.3 t/m3)と大きく、波浪安定性に優れます。

02. 機械的特性

28日強度で、準硬石相当の天然石材と同等の9.8 N/mm2以上、配合によっては30 N/mm2程度の強度発現が可能であり、普通コンクリートよりも長期強度の伸びが大きい。曲げ強度や引張強度は、同じ圧縮強度の普通コンクリート同等です。また、すりへり係数は普通コンクリートよりも小さく、耐摩耗性に優れます。

03. 低アルカリ

主な結合材が高炉スラグ微粉末であるため、海中でのアルカリ成分の溶出が少なくなります。

04. 優れた生物付着性

原料の鉄鋼スラグには、鉄や珪素などの生物に必須の元素を多く含まれるため、海洋環境下における付着生物の種類数、付着生物量が同等以上に多くなる傾向が確認されています。

05. 任意の形状・粒度の石材供給が可能

発注者・使用者のご要望に応じて、粒径や粒度分布のつくり込みが可能となります。例えば、粒度分布を整えることで、せん断抵抗角φは35°以上が確保でき、また、10%通過粒径(D10)≧1mmを管理することで非液状化材料として利用できます。

鉄鋼スラグ水和固化体製ブロック、人工石材の概要

*一般的な異形ブロックの設計基準強度
**海水溶媒:固液比1:10。
フロンティアロック®を用いた港湾修繕工事
鉄鋼スラグ水和固化体製ブロックを用いた護岸補強工事
出荷前のフロンティアロック®
フロンティアロック®への海藻類付着状況と観察されたイシモチの群れ

軟弱浚渫土の有効活用技術(カルシア改質土)

カルシア改質土は、航路浚渫工事などで大量に発生する“軟弱浚渫土”に、転炉系製鋼スラグを原料として成分管理と粒度調整を施した“カルシア改質材”を混合することにより、物理的・化学的性状を改質した材料です。
カルシア改質材を浚渫土に混合すると、浚渫土のシリカ分・アルミナ分とカルシア改質材からのカルシウム分が水和固化してカルシウムシリケート系水和物(C-S-H)やカルシウムアルミネー系水和物(AFm)が形成され、浚渫土の強度が改善されます。
また、カルシア改質材は、浚渫土に混合すると即時に浚渫土の水分を吸収し、材料分離を抑制する作用を発揮するため、混合直後カルシア改質土を海水中に投入する場合においても、濁りの発生が抑制されます。
他にも、カルシア改質土は以下のような特長を有するため、様々な用途への活用が可能です。

濁りの抑制効果の比較

浚渫土
カルシア改質土
カルシア改質土の特徴
  • ・法面勾配の形成が可能である
  • ・液状化に抵抗できる
  • ・海水中で長期的な劣化が生じない(耐久性を有する)

カルシア改質土活用例

01. 埋立

海面に人工の地盤を造成する「埋立」に用いた場合、強度発現が早く圧密沈下も小さいため、埋立工期の短縮が可能となります。

02. 浅場や干潟の基盤造成

生物の産卵や生育の場であるとともに、生物による水質浄化の場となる「浅場や干潟の基盤造成」に用いた場合、自然の海岸のように勾配を設けることが可能で、かつ強度を有するために表面に設けた生物生息空間(覆砂や築磯等)を安定的に保持できます。

03. 中仕切り提

大規模な埋立工事を区分けして効率的に施工していくために設ける「中仕切り提」に使用した場合、埋立材のみならず従来は天然石を使用していた中仕切り提にも浚渫土を有効活用することができます。

04. 腹付け

護岸の安定性を増すために背後を拡幅する「腹付け」に使用した場合、護岸背面の液状化が抑制されるのみならず、難透水性であるために防砂シートを使わずに背後の埋め立て用材の流出を防止することも可能です。

カルシア改質土の用途事例
埋立材
腹付け材
浅場・干潟基盤材
工事の事例
令和元年度函館港若松地区−10m 泊地浚渫工事、函館港若松地区浚渫工事、函館港−10m 泊地浚渫工事、函館港泊地浚渫工事、令和2年度函館港若松地区泊地浚渫その他の工事の概要

浚渫エリアで発生した浚渫土砂を、土運船でカルシア改質材との混合場所に運び、バックホウで解泥した後、改質材と混ぜ合わせます。改質土は、西防波堤の背後と浚渫エリア内の窮地に投入する。西防波堤背後に投入する改質土の設計強度は下図の通りです。

カルシア改質土投入作業
カルシア改質土投入作業
浚渫作業
カルシア改質材混合作業
工事名
令和元年度函館港若松地区-10m泊地浚渫工事、函館港若松地区泊地浚渫工事、函館港-10m泊地浚渫工事、函館港泊地浚渫工事、令和2年度函館港若松地区泊地浚渫その他の工事
施工場所
浚渫箇所:函館港第2区
カルシア改質土造成場所:函館市浅野町、港町
カルシア改質土投入箇所:函館港第2区、函館市弁天町地先(西防波堤)
工事内容
浚渫工、土砂改良工、土砂運搬工、土捨工
※浚渫工とカルシア改質材を混合したカルシア改質土による窮地埋め戻し及び背後盛土の造成
施工数量
カルシア改質土約20万600m3
発注者
国土交通省北海道開発局函館開発建設部
施工者
東洋・富士サルベージ経常建設共同企業体、五洋建設株式会社札幌支店
施工期間
2019年6月~20年12月
函館港若松地区浚渫工事に伴うカルシア改質土の施工手順

01. 浚渫工

クラブ浚渫船で水深10mまで浚渫。

02. バックホウ混合

浚渫土砂をカルシア改質材との混合場所まで運び、解泥後に改質材と混合。5つの工事のうち最初の工事で約1か月間、混合の試験施工を実施し、改質材を全量投入から段階的に投入・混合する方式に改め、混合時間を約60分に短縮。施工効率を上げた。

03. カルシア改質土投入

改質土投入箇所の周りは汚濁防止フェンスで囲う。

カルシア改質土の開発の歴史

カルシア改質土の開発は、2004年度から2007年度にかけて(一社)日本鉄鋼連盟にて実施した経済産業省補助金事業での基礎研究に始まりました。大阪府堺市の北泊地で行われた3,000m3規模のマウンド造成とモニタリング調査により、室内試験や水槽実験で確認した有用性・安全性が実施工でも得られることを確認しており、得られた技術的な知見は「転炉系製鋼スラグ 海域利用の手引き」および「転炉系製鋼スラグ 海域利用の手引き 別冊 転炉系製鋼スラグと浚渫土との混合改良工法技術資料」にとりまとめられました。なお、これらの成果は、2012年度に実施した50万m3規模の大規模埋立て工事等によってさらなる知見の蓄積がはかられたことにより、「設計・施工マニュアル(カルシア改質土研究会)」の発刊へとつながっています。

その後、さらなる施工実績の積み重ねを経て、「設計・施工マニュアル」は、その確からしさが実証され、2016年度には(一財)沿岸技術研究センターから「沿岸技術ライブラリー“港湾・空港・海岸等におけるカルシア改質土利用技術マニュアル”」が発刊されるに至りました。その後、2017年度には(一社)漁港漁場新技術研究会から「水産公共関連民間技術確認審査・評価報告書改質技術」が発刊された他、2018年度には「カルシア改質土工法積算マニュアル(カルシア改質土研究会)」が発刊される等、マニュアル類が整備されてきています。

現在では、国土交通省の事業への採用が開始され、四国地方整備局が愛媛県西条市の東予港中央地区にて実施した耐震強化岸壁築造工事では、雑石と同等の液状化抵抗性を持つ材料として岸壁の裏埋め材としての活用がなされました。また、北海道開発局が北海道函館市の函館港若松地区にて実施した浚渫工事では、既存の防波堤背面盛土造成と窪地埋め戻しに活用がなされました。

鉄分供給ユニット「ビバリー®ユニット」(日本製鉄)

近年、日本各地の沿岸では、「磯焼け」という現象が発生し、沿岸漁業に打撃を与えています。磯焼けとは、沿岸の磯のコンブやカジメなどの大型海藻類が枯死消失し、代わりに無節・有節の石灰藻が岩面を覆うことにより、一面が白くなってしまう状態を言います。

磯焼けは、海水温の上昇、これによる植食動物の過剰な活性化、水質汚濁などの様々な複合要因で起こるといわれていますが、原因の1つとして、河川の上流での木々の伐採により、それまでは落ち葉が堆積してできていた腐植土中で生成し、河川を通じて海へと供給されていた「腐植酸鉄」が減少したこともあげられています。

試験後のコンブの生育状況
北海道増毛町での大規模実証事業
ビバリー®ユニット等の鉄鋼スラグ製品を利用した藻場造成のイメージ

日本製鉄では、水に溶けやすい鉄分が多く含まれているという製鋼スラグの特徴に着目し、製鋼スラグと廃木材チップの発酵物との混合物を袋詰めした腐植酸鉄の生成ユニット「ビバリー®ユニット」を開発しました。このユニットを活用して、鉄分が不足して海藻が育ちにくくなっている海域での“海の森”の再生に取り組んでいます。

ビバリー®ユニットによる鉄分供給効果を確認するため、海の緑化に向けて産学研究を進めている「海の森研究会」において、東京大学等とともに、2004年の北海道増毛町での実海域実験を皮切りに、全国で実験を実施してきました。

増毛町での実験では、一面が無節石灰藻類に覆われて真白であった海底が、波打ち際にビバリー®ユニットを埋設半年ほどで、沖合30m程度までコンブが豊かに生育する様子が確認されました。また、その後の大規模な実証事業では、300mにわたる海岸線において沖合50m程度までコンブが生育しました。これにより事業開始前と比べてウニの漁獲高はほぼ倍となり、水産振興にも貢献できたことが確認されています。

なお、2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書において、ビバリー®ユニットによって創られる“海の森”のような沿岸の生態系に取り込まれる炭素が「ブルーカーボン」と命名され、カーボンニュートラルの実現に向けた新しい二酸化炭素吸収対策の選択肢として注目されています。現在、日本製鉄では、創出した“海の森”がカーボンニュートラルの実現にどれほど貢献できるのか、ブルーカーボンに関する研究にも取り組んでいます。

鉄鋼スラグ炭酸固化体「マリンブロック®(JFEスチール)

マリンブロック®は、製鋼スラグにCO2含有ガスを供給することで、スラグ中の酸化カルシウムとCO2の反応で生じた炭酸カルシウムがスラグ粒子間を結合することにより、固化させたブロックです。炭酸カルシウムは貝殻やサンゴと同じ成分であることから、マリンブロック®は、海の生物との親和性が高く、サンゴ造成礁や藻場造成礁としての活用が期待できます。また、製造時にCO2含有ガスを使用するため、CO2排出削減にも寄与できます。

近年、世界のサンゴ礁は、陸からの土砂の流入、オニヒトデなどの捕食生物の爆発的な増大、さらには地球温暖化に伴う海水温の上昇などにより、深刻な危機にさらされています。JFEスチールは、マリンブロック®上に、サンゴ幼生の着床具を取り付けたサンゴ造成礁を用いて、サンゴ礁を再生するための実証研究を行っており、宮古島での実証試験では、マリンブロック®への稚サンゴの着生や約20cmに成長したサンゴ(ミドリイシ、3.5年経過時点)を確認しています。また、マリンブロック®が多孔質体であることや原料の製鋼スラグには鉄分や珪素などの栄養成分が含まれることから、海藻の着生基盤材料としての有効性を確認しており、海中林の創出や再生、水産資源拡大に貢献する基盤材料として、利用拡大に向けた取り組みを推進しています。

マリンブロック®の基礎特性などに関しては、(一財)港湾空港高度化環境研究センターから「鉄鋼スラグ炭酸固化体利用マニュアル」が発行されており、利用手引き書として活用されています。

マリンブロック®を利用した海域環境の修復・改善への取り組み状況

マリンブロック®へのサンゴ播種床設置状況
マリンブロック®上のカジメ生育状況(神奈川県城ヶ島)
「ハナサンゴ」に属する熱帯魚(沖縄県宮古島)
直径20cmに成長した「ミドリイシ」(沖縄県宮古島)
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